私たちの卒業式:『のんのんびより のんすとっぷ』最終話
こんにちは。
テレビアニメ『のんのんびより のんすとっぷ』が最終話を迎えました。聞くところによると原作の最終回に準拠していたようで、アニメとしての『のんのんびより』も今回でグランドフィナーレなのかな、と思っています。
それにしても、最終話はとてもよくできていました。今日はそれについて考えていきたいと思います。
〇『のんのんびより』からの卒業
最終話「また桜が咲いた」では、Aパートで越谷卓の卒業式が描かれました。
『のんのんびより』のレギュラーキャラクターとしては唯一と言ってもいい男性キャラクターである卓。アニメでは結局最終話まで一言も発しない徹底ぶりでしたね。
卓の卒業式を通して描かれていたのは、我々視聴者の『のんのんびより』卒業でしょう。卓は傍観者ではありませんでしたが、やはりアニメ『のんのんびより』の中では異質なキャラクター。今回に関しては、男性の多い視聴者の感情移入する相手として、卓が設定されていたように思います。
特に、蛍が卓の卒業式に対して感慨深い思いを抱いていたり、れんげ含めて卓に対する感謝を述べていたりした部分は、まさに『のんのんびより』世界からの視聴者に対する思い、感謝を伝えようとしていた部分なのではないでしょうか。
ところで、全くの先入観なく「『のんのんびより』の最終話」を想像すると、色々な可能性が浮かんできます。例えば、ラストシーンでれんげを大人にしておき、れんげに旭丘分校時代の写真が納められたアルバムをそっと閉じさせる。こうすれば、時間軸が揃っているようでバラバラな『のんのんびより』世界は、れんげの「おもいで」だったのだと結論付けることができます。
公式『のんのんびより』が選んだのは、我々視聴者を卒業させることで、これからも(描かれないだけで)『のんのんびより』世界は続いていくのだと示すやり方だったと考えます。特にミソなのが、卓は引っ越しをしていないというところ。旭丘での日常(=『のんのんびより』)は終わってしまうけれど、いつでも帰ってくることはできる。そんなメッセージを感じ取りました。
〇新しい日常の始まり
先ほど私的な妄想として、「れんげにアルバムを閉じさせる」ラストシーンについて書きました。それは『のんのんびより』の物語を「過去」にするやり方です。
一方の公式は、これまで全く変動することのなかった『のんのんびより』の時間軸を、一歩進めることで完結を印象づけました。いずれも結局は時間軸を進めるということであり、そこには共通点があると言えます。
つまるところ、『のんのんびより』はれんげを小学1年生から先に進めなければ完結しません。なぜなら、れんげを小学1年生のままにしてしまえば、れんげたちをあの時間軸に閉じ込めてしまうことになるからです。れんげたちも私たちと同じように一年を生きていて、これからも成長し続ける。受け手にその実感を与えなければ、私たちは『のんのんびより』から卒業することができないのです。
「また桜が咲いた」では、小学校で2年目の春を迎えたれんげを中心に、ほとんど全てのキャラクターの新しい日常が描かれました。特に旭丘分校のメンバーは、卓が抜けたところにしおりが加入。加えて、数年後に分校に通うであろうしおりの妹の存在も描かれました。
これまで機を見て描かれてきたように、旭丘分校は蛍やれんげが加入する前、すなわち楓やひかげがいた頃も、それなりに楽しい、のんびりとのんきな日々を送ってきています。しおりやその妹・かすみの存在は、これからもあの世界で「のんのんびより」が続いていくことを示唆しています。ここに、『のんのんびより』世界に生きるキャラクターたちを、同じ時間軸の中に置き去りにしない工夫が感じ取れました。小鞠も夏海も蛍もれんげもしおりも、これから新しい「のんのんびより」をあの世界で過ごしていくのです。その事実だけで、私たちは安心して『のんのんびより』から卒業できるというもの。
ここには、最終話を単なる喪失感や別れだけでは終わらせない、作り手の工夫が見られたと思います。
〇続編の余地はあるのか
『のんすとっぷ』を観ていて感じたのは、正直、同じ時間軸でこれ以上物語を続けるのは難しいのではないか、ということでした。
「描かれる大切な思い出たち:『のんのんびより りぴーと』鑑賞メモ」で書いたように、『りぴーと』の時点で一年間の主要なエピソードを使い切っているのが現状です。そこでどう物語を新しく展開していくかというと、やはり今回のようにキャラクターを追加するしかありません。ところが、同じ時間軸だとキャラクターの追加にも限度がある。その難しさが『のんすとっぷ』にはあったと思います。
とはいえ、これまで同じ時間軸で色んなエピソードをやってきた作品ですから、続編の余地がないわけではありません。それこそアニメオリジナルで、『ばけーしょん』の冬版をやったっていい。ただし、どれだけアニメオリジナルを是としたとしても、テレビシリーズをこれからも続けるのは難しい。『ゆるキャン』劇場版はどうやら時間軸を大幅に進めるらしいですが、『のんのんびより』でもそれが可能か、例えば「れんげ中学生」編の構想が可能かと言えば、やはり難しいと言わざるを得ないのが現実です。
劇場版やOVAでのエピソード追加は十分可能なので、そこに期待はできます。しかし、テレビシリーズとしての『のんのんびより』には、心残りがないように、今回でしっかりと卒業、別れを告げておくべきだと思います。その意味では、とても美しく見事な最終話だったのではないでしょうか。